幻想です

「買うつもりもねえのに、偉そうに宣伝なんかするんじゃねえぞ。ばかやろう。電話代がムダだろうが!」
声は三十代くらいの男性。亡くなった知人の本を売りたいとの電話で、話しているうちに突然罵倒されてしまった。細かく聞きすぎたのが気に触ったらしい。
片道二時間半くらいかかる遠方で、「とにかくいろいろたくさんある」と言う。「小説なんかじゃないぞ」「いい本だ」とのことだけれど、目の前にあるらしい本の書名を読み上げてもらうと、すべてベストセラーの小説ばかり。「それは小説ですね」「これを小説というのか?」ちょっと話が嚙み合わない。お聞きしたかぎりでは、長距離遠征しても、おそらくガソリン代にもならないだろう。
本に親しみのない人には、どんな本でも、とてつもない価値があるように思えるらしい。