もちろん落とせません

会場中央の台のそのまた中央に紙くずがある。なんだかその辺りに主張がある。ガリ版刷の20頁位の冊子が三冊とおまけが一冊。いや、本というよりただの紙束にしか見えないから、三つと一つと言うべきか。
昭和初期の詩の雑誌。無政府主義系らしい。表紙もガリ刷り、端がめくれたり破れたり、なんともみすぼらしい。一冊など油紙のようなものに手書きして表紙の代わりにしている。その哀れをさそう外見といささか異なり、執筆者を見れば、これはこれは。付録のようについている冊子も、表紙のみならず数頁欠落しているようではあるけれど、主宰者、執筆者ともにこれもまた。
これはちょっと珍しいのかもしれない。いや、珍しいに違いない。二度とお目にかかることもなさそうだ。さて、いくら入れよう。
開票開始時間ぎりぎりまで悩んで、結局ふところと相談して、エイヤッと入れたン万円。落札価格はその4倍以上だった。
それにしてもあんな紙くず、よくぞこれまで70年以上も、捨てられずに生残ったものだ。