小田実 合掌

作品は「何でも見てやろう」しか読んだことはない。
私の頭の中では“小田実ベ平連”だ。
大学二年の春、一緒にデモに参加したクラブの友人が逮捕された。いつもは自治会の隊列なのに、その日に限ってベ平連だった。なにしろ教養部の隊列はガキばかりだからいつも暴走気味。デモの間中機動隊と小競り合いで、気力充実していない日はちと辛い。ほとんど一方的に殴られ蹴飛ばされるだけだし。ベ平連に加わったのは「今日は天気もいいし、ノンキにやろうや」とかそんなことだったと思う。
終ったばかりの合宿の話などしているうちにデモ隊から遅れた。数十メートル。「追いつこうぜ」二人で走り出した。電柱に政党のポスターが下がっている。走る勢いでそれを弾き飛ばした。二枚、三枚。「逮捕!」と怒鳴るスピーカーの声が聞こえた。周りの私服が一斉に走り寄ってくる。目についた路地に飛び込んで逃げた。走った。なにしろ当時は毎日トレーニングで走っていたからお手のもの。後ろも見ないで走った。
大回りしてデモ隊に戻ってみると、友人が警備車両に連れ込まれるところだった。数十人で車を取り囲み「不当逮捕だ」と抗議したけれど、もちろんムダだった。
あれから友人とは数え切れないほどの回数酒を飲み山にも行った。しかし、あの時のことを話したことはない。二人ともうまく逃げおおせていれば笑い話だったのに。
今でも博多周辺に住み時々顔を合わせるクラブの同世代十数人、半分は当時逮捕歴がある。セクトに入っていた者もいないのに、前歴率が高すぎる。よっぽど要領の悪い奴らばかりなんだな。