長崎市長銃撃

およそ三十年前、新米記者として赴任した長崎は、まだまだ素朴な田舎町だった。坂道とおばあちゃんと、やたら猫が目につく、そんな街だった。
数ヵ月後、地場の暴力団(そんな言い方はあるのか?)が、広域暴力団山口組傘下に入った。事務所開きをやるという。あろうことか、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった山口組大幹部山健組組長通称“ヤマケン”が長崎に来るという。「そんな勝手なことをさせてたまるか」と長崎県警が色めきたった。事務所開き当日、陸海空(?)に大掛かりな検問をしいた。会場に行ってみると、ズラリと黒服のオニイサン達が並んでいる。道を隔てて楯を構えた機動隊が対峙。ほとんど映画かマンガの世界だった。
必要もなかったけれど、他社の記者と数人連れ立って、真正面に行って写真を撮った。怒鳴られた。「てめえら、ぶっ殺すゾ!」セリフまでマンガだ。黒服数人に追っかけられた。機動隊は、命令がないので動かない。現場指揮官の捜査二課長は腕を組んだままニヤニヤ笑っている。前日、取材陣を睨みまわして「あんたら誰かちょっかいだして殴られてくれや。あいつらみんなあげてやる(逮捕する)から」と言っていたのは冗談ではなかったらしい。
生涯であんなに真面目に走ったことはなかった。満腹のハイエナから追っかけられるウサギの恐怖はこんなものだろうか。相手が本気ではないと判ってはいても。
今回の事件の組は、あの時の組とは名前が違っている。あの日結局長崎県内に入れなかったヤマケンは、後に一和会との抗争で殺されたらしい。
伊藤一長市長のご冥福をお祈りいたします。合掌。