旧家

隣市の大型団地で10時、お約束の女性を乗せて郊外に向う。ほんの30分くらいでなつかしいくらいの田舎風景に。
田舎の家を「両親が亡くなった後、そのままにしておいたけど」今度売ることにしたので、色々処分しているとのこと。
「ボロ家なんですよ。驚かないでくださいね」
着いて驚いた、これがボロ家ですか。瓦屋根付きの門、同じく塗り壁に囲まれた大きなお屋敷でした。敷地4、5百坪もありそう。釘を一本も使っていないという母屋は、抱えきれないほどの大きな梁がガッチリ組み合わせてあって、木の重みで沈んでしまうんじゃなかろうかと思うくらいドッシリしている。
「これはひょっとしたら大当たりか?」ワクワクしながら屋根裏へ。しかし、妙に本が少ない。スペースがスカスカで、これといったものもない。聞いてみると、代々医者の多い一族で「その関係の本はみな親類達が持って行きました」
「なんだか、和紙に手書きしたような本がいっぱいありましたけどねえ、あんなきたない本、どうするんでしょうねえ。解剖の絵を描いた本なんか」
他に「父が熱心に集めていた仏像関係は○○さんが」「美術関係は○○さんが」等々、持っていって、今ここにあるのはその残骸なのでした。ああ。
手ぶらで帰るのもしゃくなので、なんとか8箱ほどもかき集め「お代なんてとんでもない、持っていっていただくだけでありがたいんですよ」というお言葉に甘えました。
同じようなことは度々あれど、本当にタダでいただいたのは今回が初めて。帰りに、大きな木箱四つ、山の上のお寺まで届けてあげたのをお支払いに代えさせていただこう。