お別れと酒と

約束の買入に行ってみると十数階建てのマンションが十数棟並んで、いったいどの棟の603号やらわからない。こういう時にかぎって携帯電話を忘れるんだから困ってしまう。今時公衆電話はなかなか見つからないのです。お客さんは「なんですぐわからんかなあ?」と不審そうでしたが、あなたは自分の家だから簡略住所でもかまわないでしょうが、こちらは初めて行くんですから、「うちの棟は番地と号数が一緒なんですよ」なんてわかるわけないです。
そんなこんなで車に戻った時は、もう告別式には間に合わない。昨日から落ち込んだ気持ちがますます沈んで、どうしても会場へ足が向きませんでした。喪服も用意していたけれど。すかさん、ごめん、また会おう。案外すぐかもしれないし。
数ヶ月前、留守中に清酒と焼酎を置いていってくれたのはお別れだったのか。数年前、学生時代のクラブの先輩が北九州から手作りのビールを持って来てくれて、一週間後には亡くなった、あれは確かにお別れだったんだなあ、などあれこれ思い出しながら帰ってみると、中学時代からの友人がビール一ケースお土産に待っていました。これはお別れじゃないな。もう二十数年間、来る時はいつも酒と一緒なんだから。